カウンセリングや心理療法と呼ばれるものの中には、色々な理論や技法があります。
家族や友人に話しを聴いてもらうことと、カウンセリングで話すことはどのような違いがあるのでしょうか?
最近では、認知行動療法と言われるものや、ブリーフセラピー、ソリューション・フォーカスト・アプローチなど、より短期的で目的を絞ったアプローチにも注目が集まっています。
ここでは、どちらかというと伝統的な、傾聴をメインとしてカウンセリングの考え方や、カウンセラーの姿勢についてご紹介します。
カウンセリングの土台
カウンセリングの土台を築いた心理学者の一人に、カール・ロジャーズ(1902-1987)という人がいます。
彼の名前は知らなくても、カウンセリングにおいて「受容」や「共感」が重要であることを知っている人は多いかもしれません。
ロジャーズは1940年代に「来談者中心療法(Client-Centered Therapy)」を創始しました。そして、受容的な態度や共感などを含めた、カウンセラーに求められる基本的な態度をまとめました。これが、今日でもカウンセラーが話を聴く際のベースになっています。
また、彼はカウンセリングにおいてとても重要な人間観を示しています。
人には成長し、肯定的に変化し、自己実現へと向かう内的傾向がある
『心理学概論』より
というものです。
人の肯定的に変化する力、自己実現へと向かう力を引き出したり、強化するために重要な態度はどのようなものか、という視点でカウンセラーの態度はまとめられています。
クライエントという呼び方
カウンセリングや心理療法に関する書籍等のなかで、相談者のことを「患者」と呼ばず、「クライエント」と呼んでいるのを見たことがある人も多いと思います。
相談者のことを初めてクライアントと呼んだのもロジャーズと言われています。
そこには、自発的な意思で、問題解決と成長のために来談する人という意味が込められています。
ビジネスにおいては、同じClientですが、顧客のことをクライアントと言って区別されます。また、IT分野においても、他のコンピュータやソフトウェアから機能や情報の提供を受けるコンピュータやソフトウェアのことをクライアントというようです(クライアントとは)。
カウンセリングの流れ(始まり~終結)
カウンセリングにおいては、一般的にどのような流れをたどるのでしょうか?
ここでは、カウンセリングのおおまかな流れをご紹介します。
予約の確定
こちらの予約フォームに記入し、送信します。
その後、メールでのやり取りで日時や時間を決めて予約を確定します。
初回のカウンセリング
初めてのカウンセリングの際には、まず同意書の内容を一緒に確認します。
特に守秘義務や記録データの取り扱いについて説明を行います。
その後、多くの場合、現在の困りごとについてお聴きします。
初めての回ですべて伝えることは難しいですし、うまく話さないといけない、と気負う必要はありません。
カウンセリングの継続
困りごとや相談内容を整理し、対処を考えていくためには、時間がかかる場合もあります。
「ここが問題になっていて、これを解決したい」と明確に思われている場合は、その部分に集中して取り組むこともできます。
そして、「何が問題かわからないけど、なんか生きにくい」「自分の性格の問題なのか、対人関係の問題なのかわからない」というような場合、問題を明確化したり、焦点づけることから取り組む場合もあります。
後者のような場合は、どうしても時間が長くかかる場合もあります。
そのことについても、相談しながら取り組んでいきましょう。
そして、問題が整理されてきたら、今後それにどう関わっていくのか、どう取り組んでいくのかという対処方法や再発防止の取り組みを考えます。
それは、今の環境を変えたり、整えたりすることかもしれません。
具体的な「行動」である場合もありますし、こんなふうに考えてみるとどうだろう、という「考え方」のこともあります。
そして、生活のなかで、ちょっとしたときに使える「セルフケア」も増やしていけるといいですよね。
終結に向けて
カウンセリングを終えたいときは、その気持ちを素直にカウンセラーに伝えてください。嫌な気持ちを持たれたり、否定されることはありません。
カウンセリングについて気になることがあるときや、進め方が自分に合っていないと感じるような場合も同様です。
ただ、もしもカウンセラーとそのタイミングがずれていた場合、そのことについてお話する時間をとりましょう、と提案することがあるかもしれません。
また、取り組みたい問題がおおよそ解消してきたら、カウンセリングの終結を考えます。
そのときには、カウンセリングを終えることへの不安を感じることもあるかもしれません。その不安に取り組むこともとても重要なことですし、終結後に、再度カウンセリングを行っても問題はありません。
カウンセラーの姿勢
先ほど書いた「カウンセラーに求められる姿勢」とはどのようなものでしょうか?
ロジャーズは、クライエントに建設的なパーソナリティ変化が生じるために、カウンセリングに必要なものとして、6つの必要条件を挙げました。
以下では、カウンセラー側に求められる3つの条件をピックアップしました。
(より詳細な説明は、また記事にしたいと思います)
① セラピストは、クライエントとの関係の中で、一致しており(congruent)、統合(integrated)されていること。
② セラピストは、クライエントに対して無条件の積極的(肯定的)関心(unconditional positive regard)を経験していること。
③ セラピストは、クライエントの内部的照合枠(internal frame of reference)に感情移入的な理解(共感的理解:empathic understanding)を経験しており、そしてこの経験をクライエントに伝達するように努めていること。
『ロジャーズ クライエント中心療法[新版]』より
2つめが「受容」に関わる部分であり、3つめが「共感」に関わる部分になります。
ロジャーズは、これらの条件がカウンセリングの中に存在し、一定期間継続するなら、建設的なパーソナリティの変化があらわれると言います。
異なる技法や理論を主軸におくカウンセラーでも、このロジャーズが提示した3つの条件は心のどこかに持っている人はとても多いと思います。
技法が大事?カウンセラーとの相性が大事?
実際に相談機関を選ぶときには、どんな先生なんだろう?
どんな技法を使う人なんだろう?と気になりますよね。
難しい専門用語で書かれてあってもよくわからないし・・・
そこで、杉原保史先生という著名な先生が書かれている「心理療法において有効な要因は何か?」という論文が参考になるかもしれません。
心理士の間でも、カウンセリングに有効な要因は一体何なのか、何か特定の要因があるのか、共通のものがあるのか、ということは何十年も議論になっています。
結果から言うと、伝統的な心理療法(傾聴や洞察を含める非指示的なカウンセリング)に大きな効果があることは事実として認められています。
1993年には、アメリカ心理学会において、「実証的に支持された心理療法のリスト(empirically supported treatments; ESTs)」が発表されています。
ここでは、エビデンスを重視する認知行動療法に関連した技法が多くリストアップされています。
それでは、「技法」や「方法論」の方が重要なのでしょうか?
Norcross, J.C. と Lambert, M.J.(2019)は、心理療法における有効な治療関係について、多くの研究をレビューし、まとめています。
そのなかで、治療関係において有効性が認められたものが以下のものです。
これを見てみると
・取り組む目標が一致していること
・思ったことを素直に伝えられる関係性
などが重要になってくることがわかります。
Norcross, J.C. & Lambert, M.J.(2019)では、有効性が実証されたもの以外にも、「おそらく有効であるもの」「有効性が望めるが、研究が不足しているもの」も挙げられています。
先ほどの「カウンセラーの姿勢」の中の、「②無条件の肯定的関心」と「③共感的理解」は有効性が確認されており、①のカウンセラーの自己一致は「おそらく有効である」に含まれています。
あらためて、カウンセリングの本質を捉えていたロジャーズ先生のすごさを感じます。そして今後、「カウンセラーの自己一致」についても、研究が重ねられるうえで有効性が実証されるかもしれないな、と期待しています。
カウンセリングがうまくいってないと感じたとき
カウンセリングのなかで、「なんだかうまくいっていない気がする…」「このまま続けていていいんだろうか?」という思いや不安が生じる場合もあると思います。
そんなときは、自分一人で考えこまず、率直にそのことをカウンセラーに伝えてください。
カウンセラーとの方向性を修正したり、目標を修正したりすることにつながり、そのことがカウンセリングを好転させることも多くあります。
終わりに
カウンセリングを希望される方はこちらから。
(参考)
- Norcross, J.C. & Lambert, M.J.『Psychotherapy relationships that work ; v. 1』New York, N.Y. : Oxford University Press、2019
- 佐治守夫・飯長喜一郎『ロジャーズ クライエント中心療法[新版]』有斐閣、2011
- 杉原保史「心理療法において有効な要因は何か? ―特定要因と
共通要因をめぐる論争―」 - 高垣忠一郎『カウンセリングを語る―自己肯定感を育てる作法』かもがわ出版、2010
- 山内弘継・橋本宰(監修)『心理学概論』ナカニシヤ出版、2006