子育てとスキーマ療法

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スキーマ療法について

こんにちは。

最近勉強している心理療法に、「スキーマ療法」というものがあります。

これは、私が元々ベースにしている認知行動療法に加え、精神分析や構成主義、アタッチメント理論など、複数の心理療法の理論を統合した心理療法です。

1990年代からYoungによって理論が構築され、現在、世界中でエビデンスが積み重ねられています。
2006年に発表されたオランダの論文(Giesen-Bloo, et al, 2006)で大規模な無作為割付比較試験(RCT)が行われ、注目されました。この研究では、精神分析とスキーマ療法を週2回、3年間行い、スキーマ療法のほうが治療の効果量が高かったことや治療の脱落率も低いことがわかりました。

スキーマとは

私たちは、ある状況において、勝手に頭に考えが浮かんでくることがあります。

例えば、朝食べようと思っていた食パンがなかったとき。
「あれ、なんでないの?」「そういえば昨日食べたので最後だったかも」「帰りに買って帰ろう」

といったあたりで終わる人もいれば、人によっては以下のように考える人もいるかもしれません。
「なんで買っておいてくれないの?」「昨日買っておいてって言ったのに!」「弟が言えば買っておいてくれるのに、私は大事にされていない」「今日は何もうまくいく気がしない」

こうした一つ一つの考えやイメージのことを「認知」や「自動思考」といいます。

そして、スキーマとは、そのような自動思考の背景にある、その人なりの認知構造であり、言いかえるとその人なりの「物の見方」「価値観」「信念」「思い込み」のことです(伊藤, 2013)。

図 認知・スキーマとおできの例

上記の伊藤先生の書籍では、とてもわかりやすく、認知とスキーマの関係を、おできとおできのできやすい体質に例えています。
何度もくりかえしおできができる人もいれば、全然できない人もいるように、人それぞれの見方や考え方には、その人自身の体質(スキーマ)が関係していることがわかります。

カウンセリングでは、認知のなかでも不安や抑うつ感情につながるような、問題となりやすい認知を扱うことが多いです。
例えば、上記の例では、「私は大事にされていない」「今日は何もうまくいく気がしない」というものです。
そして、人によっては全然そんなふうに思わないのに、どうして私はそんなふうに思ってしまうのか?というところで、その背景にある「スキーマ」(体質)が関係していると考えます。

小さいころに満たされなかったもの

スキーマにはポジティブなものもネガティブなものもありますが、やはり問題になりやすいのは、ネガティブなスキーマです。スキーマ療法のなかでは「早期不適応的スキーマ(early maladaptive schema)」と呼ばれ、現在では18のスキーマに分類されます。
これらは、小さい頃の経験によって形成され、その後も維持されている非機能的な認知と感情のパターンとされています(ヤング、2008)。

そして、「小さい頃の経験」には、小さい頃の欲求が満たされる経験が大きく関わっています。
『セルフケアの道具箱』では、生きづらさと関連する「子どもの感情欲求」として、以下の5種類が挙げられています。

①安心したい、愛されたい、理解されたい、守られたい、自分と他者を信頼したい

②自分に自信をもちたい、上手にできるようになりたい、しっかりした自分になりたい、物事にチャレンジしたい

③自分の欲求や感情や意思をまず大事にしたい、自分の欲求を大事にしてほしい

④のびのびと暮らしたい、人生を楽しみたい

⑤ルールを守り、みんなと平等でありたい、自分だけでなく他人の権利も大事にしたい

『セルフケアの道具箱』伊藤絵美、2020

というものです。

「安心したい」「のびのびと暮らしたい」など、生きていく上で当たり前のように求めるものですが、一方で、生活のなかでその思いが脅かされる場面と遭遇することがあります。
そして、それは必ずしも虐待や災害などのトラウマチックな出来事によるわけではありません。
例えば、心配しすぎる親から「過保護な扱い」を受けると、安心感や守られていると感じることはできますが、チャレンジすることや、それによって自分に自信をつける機会も奪われてしまうかもしれません。

子育てとスキーマ

私は今生後6ヶ月の子どもを育てているのですが、本当にまっさらな状態なんだと思い知らされます。
まさにスキーマが現に、そしてこれから形成されようとしているのです。
この子が世界をどのように認知するようになるのか、どのように経験を積み重ねていくのか、それに大きく関わる存在として、やはり責任の大きさを感じます。

さて、先日は目を離した間に寝返りしてベッドから落ちるという事件がありました。

もう大大大反省の出来事なのですが、幸い、数日間は様子を見ながら、何事もなく元気にしているので安心しました。

落ちた瞬間に泣き始めたので、すぐに気づいて抱きかかえたのですが、痛いというよりびっくりして泣いていたようで、しばらくすると落ちついて笑ったりおもちゃで遊んだりし始めました。

泣き止むまでのしばらくの間、私の頭のなかには『ああ、今、「安心したい」「守られたい」という欲求を満たしているところなのかもしれない』という思いがわきあがりました。

月齢が低いときには何で泣いているのかわからないときもありますが、これから成長するにつれて、そういうことは減ってくるでしょう。

そして、増えてくるのが「こうしたいのにできない」とか「不安だ」とか「不公平だ」とか、まさに「子どもの感情欲求」に関わるものです。

身近な大人である親は、できるだけ満たしてあげたいと思います。

有名なマズローの5段階の欲求では、下から「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」(周囲から受け入れられたい、所属・帰属欲求)「承認欲求」(他者から尊敬されたい、認められたい)「自己実現欲求」となっています。

上の5つと重なる部分も多く、やはり基本的な欲求なんだなあ、ということがわかります。

スキーマ療法を実際に取り組もうと思うと、それぞれのスキーマが形成された記憶を思い出すなど、かなりエネルギーが必要になります。

一方で、スキーマ療法を実際に行っている伊藤先生は、スキーマに関する心理教育、つまり知識をつけるだけでも、人によっては大きく変わることもあると書かれています。

そのためにセルフヘルプ本にもスキーマについて紹介しているんだと思います。
興味がある方は本を買って読んでみるのもいいと思いますし、カウンセリングの中で共有することもできます。

実際、スキーマ療法について本を読むと色々なことを思い出したり、話したくなることがあると思います。

そうした場合には、カウンセリングを取り入れることも検討してみてくださいね。

(参考)

Geisen-Bloo, J., van Dyck, R., Spinhoven, P., et al.: Outpatient psychotherapy for borderline personality disorders: Randomized trial for schema-therapy vs transference-focused psychotherapy. Archives of General Psychiatry, 63(6). 649-658.

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