ストレッサーからストレス反応へ
前回までは、ストレス反応と、ストレス反応の黄色信号について取り上げました。
今回はどんなストレッサーがあるのか、見ていきたいと思います。
ストレッサーとは、ストレスの原因となるものをいいます。
ストレッサーからストレス反応までを図にまとめてみました。
例として、タバコの煙、匂いについて考えてみます。
ストレッサーになるのはタバコの煙ですが、それがストレスになるかどうかは、人によって異なります。タバコの煙が「全然平気!」という人もいれば、「少し匂うだけでも気になる」という人もいるでしょう。

図 ストレッサーから分岐があり、ストレス、ストレス反応へと向かう
タバコが苦手ではない、という人は、当然ストレスにはなりませんし、ストレス反応も生じません。
ストレスと感じるかどうかには、認知的な評価による分岐がある、ということがポイントの一つです。
「そんなことまで気にするの?」「逆になんで気にならないの?」といったやりとりは、こうしたところで生じているのかもしれません。
ストレッサーの種類
ストレッサーの分類の方法はいくつかあります。
ここでは、文科省のHPにも紹介してある、「生活環境ストレッサー」「外傷性ストレッサー」「心理的ストレッサー」の3つに分類するものを紹介します。
生活環境ストレッサー
ここには、生活における刺激や出来事の多くが含まれます。
例えば、学校・仕事におけるライフイベントであったり、人との出会い・別れ、仕事の失敗・成功、環境の変化などなど・・・
生活には変化がつきものです。ホームズとラーエは、生活上の変化に適応するためのエネルギーに着目して、さまざまなライフイベントのストレス強度を、客観的に測定することを試みています。
そこには、配偶者の死や離婚、病気などネガティブな変化に加えて、結婚や妊娠、昇格、休暇などの一見プラスに思えるものも含まれていました。
ポジティブな変化の場合、自分自身でも見逃しやすく、気づかないうちに頑張りすぎていることもあるかもしれません。振り返りの際には気を付けてみてください。
外傷性ストレッサー
外傷性ストレッサーには、災害や犯罪被害など、その人の生命や存在に影響をおよぼす、強い衝撃をもたらす出来事を指します。
2 社会的不安:戦争・紛争・テロ事件・暴動
3 生命などの危機に関わる体験:事故・犯罪・性的被害など
4 喪失体験:家族・友人の死、大切な物の喪失
トラウマについて
トラウマ(psychological trauma)は、日本語では心的外傷といいます。
DSM-5の診断基準においては、「実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事を直接体験する、もしくは直に目撃すること」とされています。
こうした経験の後に出てきやすい症状として以下が挙げられます。
●トラウマに関する出来事を思い出したり、考えたりすることを避ける
●否定的な考えの出現、楽しい気持ちが少なくなる
●イライラしやすくなる、集中困難、不眠 など
心理的ストレッサー
心理的ストレッサーとは、否定的な予期や評価のことです。
「発表が失敗したらどうしよう」「こんな風に思われているかもしれない」「うまくいくわけない」など、生活している中で、否定的な予測をしてしまうことがあると思います。
なんと、それ自体がストレッサーとなる、ということですね。
これがストレスとなるかどうかは、個々人の認知的な評価によります。
「発表がうまくいかないかもしれない」→「でも、必要な準備はしてきたんだから、とにかく終わらせよう」と考えると、不安な状態から少し抜け出しやすいかもしれません。
心理的ストレッサーは、「常識」とか「前提」とも近いと考えられます。社会的な通念や、自分の中にある信念が、自分自身のストレッサーになってしまう場合があります。自分の信念や価値について考えてみたい方は、スキーマ療法が役に立つかもしれません。
ストレスが全くなくなるとどうなるの?
「ストレス」という言葉にはネガティブなイメージを持ちやすいかもしれません。
しかし、ストレスが全くない状態は、刺激に対する反応が見られない「死んだ状態」ととらえることができます。
運動不足になるとジムに行ったり筋トレをして、運動不足を解消しようとします。体にとっても、適度なストレスがあることが必要なんですね。
生活環境ストレッサーのところで見たように、ネガティブな出来事だけでなく、結婚や昇格などの喜ばしい出来事もストレスになる場合があります。
これは、やりがいや生活の張り合いにもなる一方で、責任の増大や、プレッシャーを感じることが関係しています。
適度なストレスを維持していくために、日常生活でのモニタリングをしっかり行っていきましょう。
ストレスを評価する際のヒント
ストレスには認知的な評価が関わっていると書きました。
これは、ラザラスとフォークマンという心理学者が唱えたストレス理論に基づきます。
認知的な評価に関わるものは、「統制可能性」と「予測可能性」の2つがあります。
統制可能性とは、ストレスにうまく対処できるかどうかを意味します。
対処できそうであれば、ストレスの脅威は小さくなり、対処が難しいと思うと、ストレスの脅威は大きくなります。
予測可能性は、そのストレスの事象がもともと起こりうると考えていたかどうかを表しています。
予想だにしなかったストレスは、予想していた場合に比べて、ストレスの脅威は大きくなります。
これは、例えば「電車が遅れることを考えて、早めに家を出る」、という場合が考えやすいかもしれません。日本の電車に全幅の信頼を寄せたくなる気持ちもわかりますが、「もしかして遅延するかも」と思っておいたほうが、いざ遅延したときのダメージも小さいですよね。
ぜひ参考にしてくださいね。
(参考)
第2章 心のケア 各論、文科省HP(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/010/003.htm、最終閲覧日:2021年2月2日)
山内弘継・橋本宰 監修『心理学概論』ナカニシヤ出版、2006
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